就労移行支援は、障害や難病のある方が一般企業への就職を目指して訓練を受けられる、障害福祉サービスの一つです。原則2年間、通所しながら職業訓練や就職活動の支援を受けられます。費用は「9割無料」と紹介されがちですが、実際は世帯の所得によって自己負担額が変わります。本記事では、対象者・費用・期間に加えて、失業保険や傷病手当金との関係、2025年10月に始まった新制度までを、厚労省とe-Govの一次情報をもとに整理します。
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※本記事は一般的な情報の提供を目的としています。利用の可否・費用・各給付との関係は個別の状況により異なります。個別事案は市区町村の障害福祉担当窓口・ハローワーク・健康保険組合・主治医にご確認ください。診断・治療・療養の判断は必ず主治医とご相談ください。
就労移行支援とは:30秒でわかる全体像
制度の輪郭をつかむところから始めます。法律上の根拠と支援の範囲を、公的情報をもとに整理します。
障害者総合支援法に基づく「訓練等給付」
就労移行支援は、障害者総合支援法(正式名称:障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)第5条に位置づけられた障害福祉サービスです(e-Gov 障害者総合支援法)。サービスの分類上は「訓練等給付」にあたります。
厚労省は就労移行支援を「就労を希望する障害者に、生産活動その他の活動の機会の提供を通じて、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練を行う」サービスと説明しています(厚労省 障害福祉サービスの内容)。
原則2年・支援の4本柱
利用できる期間は、原則として2年間です。この期間内に、おおむね次の4つの支援を受けられます。
- 職業訓練(パソコンスキル・ビジネスマナーなど)
- 就職活動の支援(履歴書添削・面接練習・求人探し)
- 職場実習や企業見学の機会提供
- 就職後の定着支援(職場への相談・調整)
通所しながら生活リズムを整え、一般就労に向けた準備を進めるイメージです。なお、就労継続支援(A型・B型)が「働く場」であるのに対し、就労移行支援は「就職を目指す訓練の場」という違いがあります。この違いは記事後半でも整理します。
全国の事業所数と利用者数
厚労省の集計(令和5年12月時点)では、就労移行支援の事業所数は2,941か所、利用者数は36,667人とされています(厚労省 障害者の就労支援対策の状況)。一定の規模で全国に広がっているサービスです。
対象者:誰が使えるのか
「自分は使えるのか」は最も多い疑問です。対象は障害種別を問わず幅広い一方、最終判断は自治体が行います。
対象となる障害・難病の範囲
就労移行支援の対象は、一般企業への就労を希望する、原則18歳以上65歳未満の方です。障害の種別は限定されておらず、次のような方が含まれます。
- 身体障害のある方
- 知的障害のある方
- 精神障害のある方(うつ病・統合失調症など)
- 発達障害のある方
- 難病のある方(対象疾病に該当する場合)
うつ病や適応障害などで退職し、回復後に再就職を目指す方も、対象になりうる範囲に含まれます。傷病手当金との関係は後の章で整理します(あわせてうつ病・適応障害と傷病手当金もご覧ください)。
障害者手帳は必須ではない
就労移行支援の利用に、障害者手帳は必ずしも必要ではありません。手帳がない場合でも、医師の診断書や定期的な通院の事実などをもとに、自治体が利用の可否を判断する運用があります。
ただし「診断書があれば必ず使える」というわけではありません。利用できるかどうかは、市区町村が個別に審査して決定します。手帳の要否や必要書類は自治体によって扱いが異なるため、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口にご確認ください。
65歳以上・在職中の扱い
原則として65歳未満が対象ですが、65歳に達する前から継続して利用している場合など、例外的な扱いがあります。また、現在就労中の方や休職中の方が使えるかどうかも、自治体の判断によって異なります。一律の線引きではないため、個別に窓口で確認することが大切です。
費用:本当に無料か?所得区分で変わる自己負担
ここが事業者サイトと最も差が出るポイントです。「9割無料」「ほとんどの人が無料」という表現は、正確ではありません。
自己負担は「世帯の所得」で4区分
就労移行支援の利用者負担は、サービス費用の原則1割ですが、世帯の所得に応じて月額の上限が定められています。厚労省は次の4区分を示しています(厚労省 障害者の利用者負担)。
| 区分 | 世帯の収入状況 | 月額の負担上限 |
|---|---|---|
| 生活保護 | 生活保護を受給している世帯 | 0円 |
| 低所得 | 市町村民税非課税世帯 | 0円 |
| 一般1 | 市町村民税課税世帯(所得割16万円未満など) | 9,300円 |
| 一般2 | 上記以外(一般1に該当しない課税世帯) | 37,200円 |
つまり、無料になるのは生活保護世帯と市町村民税非課税世帯です。課税世帯では、月9,300円または37,200円の上限の範囲で自己負担が発生します。「誰でも無料」ではない点に注意が必要です。
「世帯」は本人と配偶者のみ
費用を判定する際の「世帯」の範囲には、重要なルールがあります。18歳以上の障害のある方の場合、所得を判断する世帯の範囲は「本人と配偶者のみ」です(前掲・厚労省 利用者負担)。
同居している親や兄弟の収入は、原則として判定に含まれません。「実家暮らしで親に収入があるから自己負担が高くなる」と思われがちですが、本人と配偶者のみで判定されるため、非課税であれば0円になるケースもあります。誤解の多いポイントなので、具体的な区分は市区町村の窓口にご確認ください。
交通費・昼食代は別途かかる場合がある
上記の負担上限は、あくまでサービス利用料の話です。事業所への交通費や昼食代は、原則として別途自己負担になります。自治体や事業所によっては、交通費・昼食の助成を行っている場合もあります。実際にかかる総額は、利用を検討する事業所と自治体の制度をあわせて確認することをおすすめします。
失業保険との関係:通所しながら受給できるか
退職直後の生活費が気になる方にとって、失業保険(雇用保険の基本手当)との両立は切実な論点です。ここは断定を避け、確認が必要な点を明確にします。
単純な通所は求職活動実績になるとは限らない
失業保険を受給するには、原則として一定の「求職活動実績」が必要です。ハローワークは、求職活動実績として認められる活動の例を示しています(ハローワーク 求職活動実績について)。
就労移行支援への通所そのものが、自動的に求職活動実績として認められるとは限りません。何が実績に該当するかは、管轄のハローワークの判断によります。「就労移行支援に通えば失業保険がもらえる」と単純化せず、通所と受給を両立できるかは必ずハローワークにご確認ください。
「働ける状態」の整理が必要
失業保険は、働く意思と能力があり、求職活動をしている方に支給されます。一方で就労移行支援は、就職に向けた訓練を受ける段階の方が利用します。両者の前提が完全に一致するとは限らないため、自分の状況がどちらの要件にあてはまるかの整理が必要です。
就職困難者の認定と給付日数
障害者手帳を持つ方などは、雇用保険上「就職困難者」と認定される場合があります。就職困難者に該当すると、基本手当の所定給付日数が一般の離職者より長く設定され、年齢や被保険者期間に応じて最長で300日となるケースがあります。該当の可否や給付日数は個別の状況によるため、詳しくはハローワークにご確認ください。失業給付全体の仕組みは失業給付 完全ガイドで整理しています。
傷病手当金との関係:体調回復後の切り替え
うつ病などで休職・退職し、傷病手当金を受けている方からの関心が高いテーマです。ここは要件の方向性が逆である点を冷静に整理します。
要件の向きが逆になる
傷病手当金は「仕事に就くことができない(労務不能)」ことが支給の前提です。一方、就労移行支援は「就労が可能になる見込みがあり、就職を目指す」段階で利用するサービスです。
つまり、傷病手当金は「働けない」ことを、就労移行支援は「働ける見込みがある」ことを、それぞれ前提とします。要件の向きが逆であるため、両者を同じタイミングで肯定的に併用できると考えるのは適切ではありません。原則として、同時進行を前提にしない整理が必要です。
時系列で考える
体調回復の段階に沿って整理すると、おおまかな流れは次のようになります。
| 段階 | 状態 | 主に関わる制度 |
|---|---|---|
| 療養期 | 労務不能で休養が必要 | 傷病手当金 |
| 回復期 | 就労に向けた準備ができる見込み | (切り替えの検討期) |
| 訓練期 | 就職を目指して訓練を受ける | 就労移行支援 |
傷病手当金を受けている療養期から、就職を目指す訓練期へ移れるかどうかは、体調の回復状況によります。回復の見込みや就労の可否を判断するのは主治医です。傷病手当金を受けながら就労移行支援に通えるかどうかは自己判断せず、主治医および加入先の健康保険組合・協会けんぽにご確認ください。傷病手当金から失業保険への切替手順は体調不良で退職する前に確認する順番で詳しく整理しています。
2025年10月の制度変更:就労選択支援とは
2025年10月から新たな障害福祉サービス「就労選択支援」が始まりました。就労移行支援の利用を検討する際は、この制度との関係を把握しておく必要があります。
就労選択支援の新設
就労選択支援は、本人の希望や能力、適性に合った働き方や就労先を選べるよう、就労を始める前にアセスメント(適性評価)を行う障害福祉サービスです(厚労省 就労選択支援について)。
経由が求められる場面
就労選択支援は、就労継続支援B型を新たに利用する方などに対して、原則として事前の利用が求められる方向で制度設計されています。また、就労移行支援の標準利用期間を超えて利用を希望する方への適用は、2027年4月以降に段階的に拡大される予定とされています(前掲・厚労省 就労選択支援について)。
自分の利用にこの制度が関係するかどうか、また経由が必要かどうかは、開始時期や対象が段階的に変わるため、最新の運用を市区町村の窓口で確認することをおすすめします。
利用の流れ:申請から通所開始まで
実際に使うとなった場合の手続きの流れを押さえます。窓口は基本的に市区町村です。
相談・申請から契約まで
おおまかな流れは次の4ステップです。
- 市区町村の障害福祉担当窓口に相談し、利用を申請する
- 自治体の調査・審査を経て「障害福祉サービス受給者証」が交付される
- 利用したい事業所を見学・選定し、契約する
- 個別支援計画を作成し、通所を開始する
見学は複数の事業所で
受給者証が交付されたら、どの事業所に通うかを選びます。事業所ごとに支援内容や得意分野、雰囲気が異なります。1か所だけで決めず、複数を見学して比較することが、ミスマッチを防ぐ近道です。次章の選び方の基準を持って見学に臨むと、比較がしやすくなります。
事業所の選び方:5つの確認基準
「どこに通うか」で訓練の質は大きく変わります。第三者の立場から、確認しておきたい5つの基準を挙げます。
1. 就職率の「分母」を確認する
事業所が公表する就職率は、計算方法が事業所によって異なります。たとえば「全利用者を分母にする」のか「卒業者だけを分母にする」のかで、見える数字は大きく変わります。高い数字を見たら、まず「何を分母にした割合か」を質問することが大切です。
2. 定着率(6ヶ月・1年)を確認する
就職した後にどれだけ働き続けられているか、という定着率も重要です。就職後6ヶ月、1年といった時点での定着率を聞くと、就職させて終わりではなく、その後も支えている事業所かどうかが見えてきます。
3. 希望職種の就職実績を確認する
事業所全体の就職率が高くても、自分が希望する職種・業界の実績があるとは限りません。目指す方向に近い就職実績があるかを具体的に確認します。
4. 自分の特性との適合を確認する
発達障害向けのプログラムに強い事業所、精神障害からの復職支援に強い事業所など、得意分野は事業所ごとに異なります。自分の特性や課題に合った支援を行っているかを見ます。
5. 見学時の支援方針の説明を確認する
見学の際に、支援方針や個別支援計画の立て方を具体的に説明してくれるかどうかも判断材料になります。質問への答え方や対応の丁寧さは、実際に通った後の支援の質を推し量る手がかりになります。
なお、本記事は特定の事業所を推薦するものではありません。就労移行支援は数ある選択肢の一つであり、利用するかどうか、どの事業所を選ぶかは、ご自身の状況に照らして判断してください。
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見学・相談を受け付けている事業所の一例です。本文の「5つの確認基準」を手元に置いて、複数の事業所を見比べる際の出発点としてご活用ください(特定の事業所を推奨するものではありません)。
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いずれも一例です。利用には医師の意見書や自治体の手続きが必要な場合があります。診断・治療に関する判断は主治医に、利用可否はお住まいの自治体の窓口にご確認ください。
よくある誤解 Q&A
検索で多く見られる誤解を一問一答で整理します。いずれも最終的な可否は窓口で個別に確認する必要があります。
親に収入があると自己負担は高くなる?
18歳以上の方の場合、費用判定の「世帯」は本人と配偶者のみです。同居の親の収入は原則として含まれません。配偶者がいない場合は本人の所得のみで判定されます。具体的な区分は市区町村の窓口にご確認ください。
障害者手帳がないと使えない?
手帳は必須ではありません。診断書や通院の事実などをもとに自治体が判断する運用があります。ただし利用できるかどうかは自治体の審査によるため、「診断書があれば必ず使える」とは限りません。
失業保険をもらいながら通える?
通所が自動的に求職活動実績になるとは限らず、両立できるかはハローワークの判断によります。「就労移行支援に通えば失業保険がもらえる」と単純化せず、必ずハローワークにご確認ください。退職後のお金の不安全般は退職後のお金の不安を整理するも参考になります。
就労継続支援とどう違う?
就労移行支援は「一般就労を目指す訓練の場」で、原則として工賃・賃金は発生しません。一方、就労継続支援A型・B型は「働く場」で、A型は雇用契約に基づく賃金、B型は工賃が支払われます。目的が「就職に向けた準備」か「働くこと」かが、大きな違いです。
| 項目 | 就労移行支援 | 就労継続支援A型 | 就労継続支援B型 |
|---|---|---|---|
| 主な目的 | 一般就労に向けた訓練 | 雇用契約のもとで働く | 雇用契約によらず働く |
| 賃金・工賃 | 原則なし | 賃金(最低賃金以上が原則) | 工賃 |
| 利用期間 | 原則2年 | 定めなし | 定めなし |
参考文献
- e-Gov 障害者総合支援法
- 厚労省 障害福祉サービスの内容
- 厚労省 障害者の利用者負担
- 厚労省 障害者の就労支援対策の状況
- 厚労省 就労選択支援について
- 厚労省 就労移行支援について(審議会資料)
- ハローワーク 求職活動実績について
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本記事は一般的な情報の提供を目的としています。利用の可否・費用・各給付との関係は個別の状況により異なります。個別事案は市区町村の障害福祉担当窓口・ハローワーク・健康保険組合・主治医にご確認ください。診断・治療・療養の判断は必ず主治医とご相談ください。


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