忌引き休暇がない・パートは取れない?法的位置づけと対処法
身内に不幸があり、急いで休みを取りたい。ところが自分の会社には忌引き休暇の規定がない。あるいはパート・アルバイトだから対象外と言われた——。まず前提として、忌引き休暇(慶弔休暇)は労働基準法に規定のない「法定外休暇」です。そのため「制度がない=ただちに違法」とは言い切れません。一方で、休むこと自体は有給休暇や欠勤で対応できますし、パートだからという理由だけで一律に対象外とする扱いには、同一労働同一賃金の観点から再検討の余地があります。本記事では、忌引き休暇の法的な位置づけを厚生労働省・e-Govの一次情報で整理し、ない場合・使えない場合の現実的な選択肢を中立にまとめます。
この記事の要点:
- 忌引き休暇は労基法に規定のない「法定外休暇」。会社が任意に設ける福利厚生であり、制度がないこと自体がただちに違法とは言えない
- ただし休むこと自体は年次有給休暇や欠勤で対応でき、パートだから一律対象外という扱いは同一労働同一賃金の観点で再検討の余地がある
- まずは就業規則の確認から。労基法では常時10人以上の事業場に作成・周知義務がある
以下はあくまで一般的な解説です。個別の事案については、弁護士や社会保険労務士、最寄りの労働基準監督署・総合労働相談コーナーにご相談ください。
忌引き休暇は法律で決まっていない「法定外休暇」
まず押さえておきたいのは、忌引き休暇が法律で義務づけられた制度ではないという点です。ここを誤解したまま会社と話すと、かみ合わないやり取りになりがちです。
労働基準法に「忌引き」「慶弔休暇」の規定はない
労働基準法の条文には、「忌引き」や「慶弔休暇」という言葉そのものが登場しません。法律が使用者に義務づけている休暇は、年次有給休暇(第39条)や産前産後休業(第65条)などに限られます。忌引きはこれらに含まれていません。
条文の全体は、e-Govの法令検索で確認できます(e-Gov法令検索「労働基準法」)。実際に検索してみると、忌引きや弔事に関する条項が存在しないことがわかります。
このため、忌引き休暇は「法律上の権利」ではなく、会社が就業規則などで独自に定める休暇という位置づけになります。
法定休暇と法定外休暇の違い
休暇は大きく2種類に分けられます。
- 法定休暇:法律で付与が義務づけられている休暇。年次有給休暇、産前産後休業、育児・介護休業などが該当する
- 法定外休暇:法律上の義務はなく、会社が任意で設ける休暇。忌引き休暇(慶弔休暇)、夏季休暇、病気休暇(傷病休暇)などが該当する
忌引き休暇は後者の法定外休暇です。付与するかどうか、日数を何日にするか、給与を支払うかどうかは、原則として各会社の裁量に委ねられています。
厚労省モデル就業規則が示す位置づけ
この点は、厚生労働省が公開している「モデル就業規則」でも明確に示されています。モデル就業規則の慶弔休暇に関する条文の解説には、次の趣旨が記されています。慶弔休暇や病気休暇については労基法上必ず定めなければならないものではなく、各事業場で必要な期間を具体的に定めるものとされています(厚生労働省「モデル就業規則」)。
つまり、国が示すひな形の中でも、忌引き休暇は「会社が任意に設計する休暇」として位置づけられているということです。
ここで注意したいのは、「法律で決まっていない=会社は休ませなくてよい」ではない点です。忌引き休暇という名目の制度がなくても、次章以降で見るように、年次有給休暇や欠勤といった形で休むこと自体は可能です。制度の有無と、休めるかどうかは別の問題として整理しておくと混乱しません。
なぜ多くの会社に忌引き休暇があるのか
法律上の義務ではないにもかかわらず、多くの会社には忌引き休暇があります。その背景を知っておくと、自社にない場合の交渉材料にもなります。
忌引き休暇がある企業の割合(参考データ)
労働政策研究・研修機構(JILPT)が2017年に実施した企業調査では、「慶弔休暇制度」がある企業の割合が90.7%という結果が報告されています(JILPT調査シリーズNo.203「企業における福利厚生施策の実態に関する調査」)。
ただし、この調査も実施から一定の年数が経過しています。調査対象は常時10人以上規模の民間企業に限られ、回答率も2〜3割程度です。そのため、現在の正確な普及率を示すものではなく、あくまで「多くの企業で制度が普及している傾向」を示す参考データとして扱ってください。
「福利厚生」として設計されている実態
忌引き休暇の多くは、従業員の福利厚生の一環として設けられています。身内の不幸という誰にでも起こりうる事態に対し、有給休暇を消化させずに休める仕組みを用意することで、働きやすさや定着を高めるねらいがあると考えられます。
法定外休暇であるため、日数や給与の扱いは会社ごとにさまざまです。有給(給与が支払われる)とする会社もあれば、無給とする会社もあります。この点も、後述する就業規則で確認する必要があります。
自分の会社に忌引き休暇があるか確認する方法
「うちには制度がない」と思い込む前に、まず就業規則を確認しましょう。口頭で「ない」と言われても、規則上は定められているケースもあります。
就業規則の確認方法(周知義務)
労働基準法は、就業規則を労働者に周知することを使用者に義務づけています(労基法第106条)。周知の方法としては、各作業場の見やすい場所への掲示・備え付け、書面の交付、社内ネットワーク上での閲覧などが挙げられます。
つまり、就業規則は本来「労働者が見られる状態」にしておくべきものです。どこにあるかわからない場合は、人事・総務の担当者に「就業規則を確認したい」と申し出て問題ありません。周知義務の詳しい解説は、厚労省のモデル就業規則の該当箇所でも触れられています(厚生労働省「モデル就業規則」)。
就業規則に慶弔休暇(忌引き休暇)の条項があれば、続柄ごとの日数や給与の扱いがそこに書かれています。まずはその内容を確認するのが出発点です。
就業規則がない場合|作成義務がある企業規模
そもそも就業規則が存在しない会社もあります。労働基準法では、常時10人以上の労働者を使用する事業場に就業規則の作成・届出を義務づけています(労基法第89条、e-Gov法令検索「労働基準法」)。
裏を返せば、常時10人未満の小規模な事業場では、就業規則の作成自体が法律上の義務ではありません。そのため、就業規則そのものが存在しない職場もあります。
就業規則がない小規模事業所のケース
就業規則がない場合、忌引き休暇の有無やルールは、雇用契約書の内容や、これまでの慣行、上司との個別の話し合いによって決まることになります。この場合は、制度として一律に決まっているというより、その都度の相談ベースになりやすい点を理解しておくとよいでしょう。
いずれにせよ、「制度がない」と言われても、休むこと自体が禁じられるわけではありません。次章以降で、パートの場合の考え方と、制度がない場合の具体的な選択肢を見ていきます。
パート・アルバイトは忌引きを取れないのか
「忌引きは正社員だけ」「パートだから対象外」と言われ、不安に感じる方は少なくありません。この点は近年の法改正とも関わるため、少し丁寧に整理します。
「パートだから対象外」は同一労働同一賃金でどう整理されるか
2020年(中小企業は2021年)以降、パートタイム・有期雇用労働法が施行され、正社員とパート・有期雇用労働者の間の不合理な待遇差が禁止されています。
- 第8条(不合理な待遇の禁止):基本給・賞与だけでなく、福利厚生を含む待遇について、不合理な差を設けることを禁止しています
- 第9条(差別的取扱いの禁止):職務内容や配置の変更範囲などが正社員と同一と認められる場合、差別的な取扱いを禁止しています
条文の原文は、e-Govで確認できます(e-Gov法令検索「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)。
慶弔休暇のような福利厚生も、この「待遇」に含まれると整理されています。国が示す同一労働同一賃金ガイドラインでも、法定外の休暇の付与について、均衡・均等待遇の考え方が示されています(厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン(不合理な待遇の禁止等に関する指針)」)。
一般論として、「パートだから」という理由だけで一律に忌引きを認めない扱いは、同一労働同一賃金の観点から再検討の余地があると考えられます。ただし、個別の会社の対応が違法にあたるかどうかは、職務内容や勤務実態などを踏まえた個別判断になります。ここでは断定せず、気になる場合は労働局の総合労働相談コーナー等に相談する、という着地にとどめます。
パートへの慶弔休暇の実施率をめぐる傾向
パートへの慶弔休暇の実施状況について、正社員に比べてパート・有期雇用労働者への適用率が低い傾向を示す調査結果は複数存在します。前述のJILPT調査でも、慶弔休暇を含む福利厚生施策について、正社員とは別に非正規従業員への適用状況を尋ねる設問が設けられており、非正規従業員への適用率が正社員を下回る施策が多いことが示されています(JILPT調査シリーズNo.203「企業における福利厚生施策の実態に関する調査」)。
具体的な適用率は調査年や企業規模、雇用形態の定義によって幅があるため、本記事では特定の数値を断定的には示しません。あくまで「正社員とパートの間に実施率の差がある傾向がみられる」という参考情報として扱ってください。同一労働同一賃金の枠組みが整備された現在では、この差の合理性が問われる場面も想定されます。
週の勤務日数が少ない場合の「勤務日振替」という考え方
同一労働同一賃金ガイドラインでは、短時間労働者への対応について、勤務日の振替を基本とし、それが困難な場合に休暇を付与するという扱いが「問題とならない例」として整理されています。
たとえば週2〜3日勤務のパートの場合、休む必要のある日が勤務日でなければ、そもそも休暇を使うまでもないケースもあります。勤務日と重なった場合に、別の日への振替で対応するか、休暇(有給・無給)を付与するかは、会社の制度設計によって変わります。この点も就業規則や雇用契約の確認事項になります。
忌引き休暇がない・使えない場合の現実的な選択肢
制度がない、あるいは使えない場合でも、休む方法がないわけではありません。ここでは実際に取りうる選択肢を中立に整理します。
年次有給休暇を使う
もっとも確実な選択肢は、年次有給休暇(有給)を使うことです。年次有給休暇は労働基準法第39条で定められた法定休暇で、要件を満たせば取得できる法律上の権利です。取得理由は問われないため、身内の不幸を理由に有給を申請することもできます。
会社には、労働者が請求した時季に有給を与えるのが原則です。会社が別の時季への変更を求められるのは、その取得によって「事業の正常な運営を妨げる場合」に限られるとされています(時季変更権)。単に「忙しいから」というだけで一方的に拒否できるものではない、という考え方が一般的に示されています(厚生労働省「確かめよう労働条件」年次有給休暇)。
ただし、実際にどこまでが時季変更権の範囲に入るかは個別事案の判断になります。ここでは断定を避け、疑問がある場合は労働基準監督署や総合労働相談コーナーに相談する、という整理にとどめます。
欠勤扱いになる場合の給与への影響
有給が残っていない場合や、あえて有給を使わない場合は、欠勤として休む形になります。欠勤は「働くべき日に働かなかった」扱いになるため、原則としてその日の給与は支払われません(ノーワーク・ノーペイの原則)。
月給制の場合は欠勤日数分が控除され、時給・日給制の場合はその日の分が支払われないのが一般的です。忌引きで欠勤扱いになると収入に影響が出るため、有給の残日数と併せて確認しておくとよいでしょう。
上司・人事に特別休暇として相談する余地
就業規則に忌引き休暇の定めがない場合でも、上司や人事に事情を伝え、特別に休暇として扱ってもらえないか相談する余地はあります。法定外休暇である以上、会社が個別の事情に応じて柔軟に対応するケースもあるためです。
相談の際は、「いつからいつまで、どの続柄の弔事で休む必要があるか」を簡潔に伝えるとスムーズです。有給で処理するか、無給の特別扱いにするか、といった落としどころも会社と確認しておくと、あとで給与の食い違いが起きにくくなります。
忌引きは何日必要になるかの目安
「忌引きは何日取れるのか」という点も多くの方が気にするところです。ただし前述のとおり、忌引き休暇は法定外休暇であり、日数は会社ごとに異なります。
一般的な日数の傾向
多くの会社の就業規則では、亡くなった方との続柄(親等)に応じて日数を定める例が見られます。一般的な傾向としては、配偶者や父母など近しい続柄ほど日数が長く、祖父母や兄弟姉妹などは短めに設定される例が多いとされています。喪主を務めるかどうかで日数が変わる規定を設けている会社もあります。
ただし、これはあくまで「そうした設計をしている会社が多い」という傾向にすぎません。実際の日数は、必ず自社の就業規則で確認してください。法律で決まった日数があるわけではないため、他社や一般論の日数がそのまま自分に当てはまるとは限りません。
本記事の主眼は「制度がない場合・パートの場合」の対処にあるため、続柄別の詳細な日数一覧は割愛します。日数の目安を詳しく知りたい場合は、自社の就業規則の確認を最優先にしつつ、一般的な相場観は別の解説記事も参考にしてください。
忌引き後の手続き・仕事との両立に向けて
身内の不幸のあとには、忌引きの休暇取得だけでなく、葬儀や相続の手続き、その後の仕事との両立という、より大きな課題が続きます。ここは内部リンクで全体像に接続します。
相続手続きと仕事の両立
忌引きが明けたあとには、相続に関する手続きが控えていることが多くあります。役所での届出、金融機関の対応、相続関連の申請など、平日に動く必要があるものも少なくありません。仕事を続けながらどこまで対応できるかは、多くの方が直面する悩みです。
相続手続きのために仕事をどう調整するか、休みをどう取るかについては、こちらで詳しく整理しています。
親が亡くなったあとの全体像
忌引きの休暇取得は、身内の不幸に伴って発生する対応の入り口にすぎません。葬儀の準備、各種の届出、相続、そして仕事との折り合いまで、全体の流れを一度把握しておくと、何から動けばよいか見通しが立てやすくなります。
親が亡くなったあとに仕事の面でやるべきことの全体像は、こちらのマップで確認できます。
なお、退職を伴う場合の各種手続きの流れについては、こちらの記事も参考になります。
まとめ・専門家への相談窓口
忌引き休暇をめぐるポイントを整理します。
- 忌引き休暇は労基法に規定のない法定外休暇。会社が任意に設ける福利厚生であり、制度がないこと自体がただちに違法とは言い切れない
- ただし休むこと自体は、年次有給休暇(法定休暇)や欠勤、上司との相談による特別扱いで対応できる
- パートだからという理由だけで一律に対象外とする扱いは、パート有期法・同一労働同一賃金の観点から再検討の余地がある
- まずは就業規則を確認するのが出発点。常時10人以上の事業場には作成・周知義務がある(労基法89条・106条)
制度の有無や会社の対応に疑問がある場合、あるいはパートへの扱いが不合理ではないかと感じる場合は、一人で抱え込まず、公的な相談窓口を利用する選択肢があります。各都道府県労働局の総合労働相談コーナーでは、労働に関する相談を無料で受け付けています。個別の事案については、弁護士や社会保険労務士、最寄りの労働基準監督署にご相談ください。
身内を亡くしたあとは、精神的にも大きな負担がかかります。体調面で不調が続く場合は、無理をせず医療機関にご相談ください。
今後の手続きや家計の見通しに不安がある場合は、ファイナンシャルプランナー(FP)など専門家に相談する選択肢もあります。
※本記事は忌引き休暇に関する一般的な解説をまとめたものです。忌引き休暇は法定外休暇であり、日数・給与の扱い・パートへの適用は会社ごとに異なります。就業規則の内容やお住まいの地域、個別の勤務実態によって取り扱いが変わる場合があります。最新かつ正確な取り扱いはお勤め先の就業規則や各窓口でご確認いただき、個別の判断に迷う場合や不当な扱いが疑われる場合は、弁護士・社会保険労務士、最寄りの労働基準監督署・総合労働相談コーナーにご相談ください。

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